184 「多様性の経済」を考えてみる

GDP 活動別 バブルチャート

1. 日本企業の変質と課題

前回は、人口と経済活動の関係を可視化してみました。
人口が増加した方が、経済(1人あたりGDP)が豊かになりやすい傾向はあるものの、人口が減少しても経済成長している国々もある事がわかりました。

日本経済の停滞は、人口減少や少子高齢化と結び付けて考えられることが多いですね。

何故このような思考になるのかを考えたとき、経済の在り方が「規模の経済」を基本としている事が根底にあるからではないでしょうか。

規模の経済は、事業を大規模化することで効率化し、安価に大量なモノやサービスを生み出し、大量に販売するという経済観ですね。
固定費を大人数で割がける事にもなりますので、間接的な費用が極小化されます。
より大規模化することで単位あたりのコストが下がっていく事を、「規模の経済が働く」と表現したりもしますね。

「規模の経済」の経済観では、大量にモノやサービスを生産します。
当然、それを販売するために、より大きな市場を求め、グローバル化していきますね。

さらに供給側にもより安価な労働力を求め、グローバル化していきます。

これまで見てきた日本経済の状況がまさに、それを物語っているように思います。
規模の経済を求めやすい「製造業」の海外進出が進み、逆に国内製造業のGDPが縮小している事実からもそれが窺えますね。

GDP 活動別 バブルチャート 日本

図1 GDP活動別 バブルチャート 日本

図1の製造業の位置がまさに、国内における「規模の経済」重視の状況を物語っているように思います。
横軸が名目GDPの変化量、縦軸が実質GDPの変化量を表します。

製造業は、物価が下がり、実質GDPが大きく増加していますが、名目GDPが大きく下がっています。
値段を下げて、たくさん作っている割に、元の経済水準から縮小しているという事を示しています。
規模の経済を重視し、「安く大量に」を求めていった結果、かえって衰退しているような状況を表しているように見えます。

当然、人口が減ると予想される日本国内は、規模の経済に依拠した経済観からすると魅力的な市場とは言えません。
日本企業ばかりが海外進出を進めて、逆に外国企業が日本へ進出してこないという流出に偏った「日本型グローバリズム」が進むのも無理はありません。

日本はかつて物価水準が極端に高く日本国内で生産して輸出するというのが相当割高であった時期があります。
円高になるとそれが大きく影響して、日本企業の海外進出を加速させてきました。
しかし、日本国内の物価が停滞する事で、海外との相対的な物価水準は低下を続け、現在は平均水準並みにまで下がってきました。
つまり産業によっては、国内生産からの輸出でもメリットの出る産業が増えているはずです。

「規模の経済」には、当然大規模な仕組みや、設備を先に投資する必要がありますので、一度供給体制を整えると、そう簡単に方向転換できませんね。
海外進出したビジネスがなかなか国内回帰しないのも、そういった事情もあるように思います。

「規模の経済」では大規模な投資が前提にありますので、ある程度以上の生産規模を維持しない限りは、採算割れしてしまいます。
しかし、作りすぎると売れ残り(在庫)が出ます。
売れ残りが増えすぎないように、値段を下げます。

採算をとるためにコストを下げます。
他者の付加価値となる仕入れコストを圧縮したり、人件費を抑制しようとします。

値段を下げると、採算をとるための損益分岐点となる生産量も増える事が考えられます。
更に「安く、大量に」を求めていきます。

実際には、既に海外に進出した企業では、こんな循環となっていて引くに引けない状況に陥っている企業も多いのではないでしょうか。
(このような実際の事業活動の循環を、経済学ではどのように説明されるのか大変興味深いです)

2. 規模の経済の特徴とは?

「規模の経済」では、労働者は「コスト」と見做されがちですね。
より安価なコストを求めて、都市部よりも郊外、郊外よりも新興国へと生産拠点が移動します。
「底辺への競争」と言われるように、世界一安い事を求めてのコスト競争となります。
特に日本では「他国よりも安価な事」が「国際競争力」と言われて、価格競争が推進されているように思います。


また、近年ではIT化、自働化技術によって、人間の労働が「自働化された手段」に置き換わりつつあります。
銀行の窓口業務がATMに代替されるのはその典型例と言えますね。
大企業ほど、効率化を追い求めて、労働者が不要になっていくという矛盾した状況に入ってきています。

「規模の経済」では、生産されるプロダクトやサービスも、より「安く大量に」を求めると画一化していきます。
逆に、規模の経済を先鋭化するほど、ニッチ領域が拡がっているはずなのですが、あまりフォーカスされません。

「規模の経済」には大資本が必要です、当然企業規模も大きくなっていきますね。
事業規模を大きくするには、事業投資への元手としてまず「金融資本」が必要となります。
金融資本は、銀行からの融資や、新株発行による株式市場からの調達などが考えられます。

日本の場合は、現在は借入を増やしての「事業投資」から、手元の留保金を運用しての「金融投資」や「海外投資」へと投資先を変えています。
このような状況から、既に日本国内は「規模の経済」の投資対象ではなくなりつつある、とも考えられますね。

大企業の株主には外国機関も増え、経営の上で株主への配慮が必要不可欠となっています。
利益の分配先も、投資を見据えての留保や人件費よりも、配当金に回っている状況ですね。

特に大企業では、配当金を確保するために、事業投資による付加価値の向上よりも、金融投資などで目先の利益を確保する事が重視されがちです。

日本経済は投資も減り、仕事によって生み出される付加価値(GDP)が停滞しています。
さらに、労働者数は増えているものの、人件費の総額が一定に抑えられていて、1人あたりの賃金水準が低下しているという異常事態が続いているわけです。

より安く(物価下落・停滞)、大量に作っている(実質GDP成長)割に、生産活動(=消費=分配=名目GDP)は停滞してしまっている状況ですね。
実際にビジネスをしていて感じる事は、どの領域でも「とにかく安くないと売れない」と考えている人が大多数である事です。
例え後述の「多様性の経済」に属するはずのビジネスでも、適正な対価について考える前に、まず売れる金額(極端に安い)を勝手に考えてしまうように思います。

大量生産品に囲まれている私たちにとって、あらゆるものが安価に生産できると勘違いしている人が多いように思います。
日本では、このような「規模の経済」一辺倒の経済観が蔓延してしまっているように思います。

そして、最も重要なことが、このような経済観の元で、消費者でもあるはずの労働者はコストと見做され低所得化している事です。
また、中流層ほど資産が減り、困窮している事態になっています。

私がこの2年程経済統計を可視化する活動を通じて感じてきたのは、この「規模の経済」一辺倒の経済観からの脱却が必要ではないかという事です。

そしてその中心となるのは、大企業というよりも、むしろ国内で7割もの労働者を雇用する中小企業ではないかと思うのです。

3. 多様性の経済とは

「規模の経済」からの転換の軸となるのが、「多様性の経済」という経済観ではないかと思います。

「多様性の経済」は、規模の経済では埋められないニッチ領域で中小企業を中心とした国内企業が、適正付加価値の事業を行う経済観です。
既にこのような領域や該当する企業も多いので、新しい概念というわけではありませんが、規模の経済との切り分けが必要と思いこのような言葉を用いました。

大規模化するほどの市場規模はなく、大規模化するとむしろ非効率で、適正規模だからこそ成立する経済領域という事になります。
規模の経済=チェーン店のラーメン屋、多様性の経済=地元の有名なラーメン屋などと考えるとイメージしやすいのではないでしょうか。

私たちの生活では、どちらもあった方が良いですね。
とにかく安く、安定していて、どこにでもあるもの(規模の経済)も必要ですし、少し贅沢だけど生活に彩を与えてくれるもの(多様性の経済)も必要だと思います。

「多様性の経済」では、ニッチ領域で独自技術などの強みを持っていたり、消費地との距離が近いなどの営業面での関係性が強い事などにより、規模の経済では難しい多品種適量のプロダクトやサービスを提供します。

もちろん、その領域の仕事は誰にでもできるものではありませんので、それだけの付加価値を提供できるような技術やノウハウが必要となる事も多いと思います。
つまり、労働者は付加価値を生むための「投資対象」となります。

また、国内の中小企業は、オーナー経営者も多く、これらの経営者は長期的な視野に立った付加価値の増大に注力でき、株主への配当金を気にしないで済む企業も多いですね。

規模が小さいため、時代の変化に合わせてスピーディに業態や組織を変化させることも強みになります。

主に国内で、同じ国民を雇用する事になりますが、日本人は教育水準が高く、真面目な人が多いと言われていますので、労働者としてとても優秀なことも強みですね。

このような多様性の経済は、現在様々な領域に存在していますが、一方でその値付け感は「規模の経済」に引っ張られて「安くて良いものを!」となりがちです。

実態としての経済活動の領域は分かれているのに、経済観としては「規模の経済」一辺倒の価値観に染まってしまっている面もあるのではないでしょうか。

私は大企業によるグローバルビジネスも含んだ「規模の経済」と、主に中小企業による「規模の経済」を経済観としてしっかりと切り分けた上で、値付けや付加価値の付け方、労働者への対価について考えていくべきではないかと思います。

以下に、規模の経済と多様性の経済についてまとめてみます。

表1 規模の経済と多様性の経済の比較

規模の経済多様性の経済
価格安価適正価格
種類画一的多様
生産量大量少量~適正規模
事業領域グローバル競争ニッチ分野
主な生産者大企業中小零細企業
主な生産拠点海外(新興国)国内
主な販売先海外国内及び海外
経営目的利益の拡大付加価値の増大
経営の時間軸短期的長期的
労働者コスト投資対象
分配先主に株主労働者→消費者
投資先金融・海外技術・人材

大切なのは、この規模の経済と多様性の経済のバランスではないかと思います。

社会全体として、規模の経済に偏った経済観を改め、「多様性の経済」を少しずつ育てていく事が大切なように思います。


もちろん、1社内で双方の事業を展開している企業もあると思いますし、どちらか一方に偏ったビジネスの企業もあると思います。

自社ビジネスの属性や方向性を見極め、特に多様性の経済に属するビジネスであれば、投資による付加価値の増大、適正な値付け、従業員への対価について向上させていけるよう取り組んでいくのが企業経営者の仕事と思います。

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