111 中小企業経営者は多すぎるのか
1. 働いている人はどれくらいいる?
前回は日本企業のうち、中小零細企業、中堅企業、大企業の企業規模ごとに、売上高、営業利益、当期純利益についてご紹介しました。
いずれの企業規模でも、売上高は横ばいながら、営業利益や当期純利益が近年大きく増大していることが分かりました。
収入は減っても、コストを押さえたり、営業外の収入で凌いでいる企業の姿が浮き彫りになったと思います。
今回は、企業で働いている人にフォーカスしてみたいと思います。
企業で働いているのは、「従業員」と「役員」ですね。
それぞれどのような状況か見ていきましょう。

図1 従業員数 企業規模別
(法人企業統計調査 より)
以前にもご紹介しましたが、図1が企業規模別の従業員数のグラフです。
中小零細企業と中堅企業では、基本的に右肩上がりの状況です。
大企業では1993年あたりから横ばいが続いていますね。
直近では、中小零細企業で約2,880万人(シェア66.8%)、中堅企業で670万人(シェア15.5%)、大企業で760万人(シェア17.6%)です。
中小零細企業で約7割の労働者が働いていることになります。
それでは、企業の経営を担う役員数ではどうでしょうか?

図2 役員数 企業規模別
(法人企業統計調査 より)
図2が役員数のグラフです。
余りに人数差が大きいので、左軸と右軸で分けて表示しているのでご注意ください。
全規模、中小零細企業が左軸、中堅企業、大企業が右軸にあります。
圧倒的に中小零細企業の役員数が多い事がわかると思います。
直近では、中小零細企業で537万人(シェア97.3%)、中堅企業で約10万人(シェア1.9%)、大企業で約5万人(シェア0.8%)です。
なんと中小零細企業の役員が500万人以上もいるわけですね。
中堅企業や大企業で働く労働者に近い人数が、中小零細企業の役員として存在するというのは驚きです。
「中小企業経営者が多すぎる」という指摘もあながち大げさではなさそうです。
いずれの企業規模でも役員数はピークから減少しています。
大企業は1997年のピーク6万4,723人から、直近の2018年では4万5,598人に約2万人(約30%)も減少しています。
中堅企業でも2004年のピーク13万5,365人から、2018年では10万4,025人と約3万人(23%)の減少です。
中小零細企業も企業数は増加傾向のはずですが、役員数は減っていますね。
2005年のピーク593万4,555人から、2018年では536万6,698人と、約57万人(約10%)の減少です。
2. 働く人の収入はどれくらい?
それでは、企業で働く人たちの収入(給与+賞与)はいったいどれくらいなのでしょうか?

図3 従業員収入 企業規模別
(法人企業統計調査 より)
図3が従業員の収入の時系列データです。
中小零細企業と大企業では、1990年台前半から横ばいが続いています。
中堅企業ではやや増加が鈍化していますが、少しずつ増えている状況ですね。
中小零細企業で110~120兆円、大企業で40~45兆円程度です。
中堅企業では、直近で約30兆円と言ったあたりですね。
日本のGDPが約540兆円ですが、そのうち190兆円(約4割)が企業で働く労働者の収入として分配されている事になります。

図4 役員収入 企業規模別
(法人企業統計調査 より)
図4が役員収入のグラフです。
全規模と中小零細企業は左軸、中堅企業と大企業は右軸となります。
2013年あたりからやや上昇傾向ではありますが、ピークからすると減少していることが分かります。
中小零細企業で25兆円、中堅企業で1.2兆円、大企業で0.9兆円程度となります。
いずれの企業規模でも役員については、人数を減らして、人件費を削減している傾向にある事が分かりますね。
それでも、役員の収入だけでも直近では27兆円程度となり、従業員の収入の15%程度に相当します。
3. 人件費のシェアはどれくらい?
それでは、従業員も役員も含めた人件費のシェアはどのような状況でしょうか。

図5 人件費シェア 企業規模別
(法人企業統計調査 より)
図5が企業規模ごとの人件費のシェアです。
ここでの人件費は従業員、役員の収入(給与+賞与)を合計したものです。
1980年頃までは、中小零細企業のシェアが増大し、大企業と中堅企業のシェアが減少している傾向です。
その後は、中小零細企業のシェアが徐々に減少し、大企業と中堅企業のシェアが増大傾向ですね。
大企業は1990年ころからほぼ停滞しています。
直近では、中小零細企業で64.7%、中堅企業で14.1%、大企業で21.2%となります。
人件費の約65%を中小零細企業が占めている事もとても重要ですね。
いかがでしょうか?
今回は企業で働く人にフォーカスしてみました。
中小零細企業は、従業員で約7割、役員で97%のシェアを誇ります。
いわゆる経営者の肩書を持つ9割以上が中小零細企業の役員と言う事ですね。
ただし、中堅企業や大企業の経営者はまさに、企業経営を担っていると思いますが、特に零細企業の経営者は”労働者”としての側面も強いと思います。
昨今、「中小企業の数や経営者が多すぎる」「中小企業経営者は怠けている」とった指摘がなされるようになりましたね。
今回の統計データを見る限りでは、確かに中小企業経営者の人数は多いと思います。
ただし、私の知る企業経営者は、皆第一線で現役として付加価値を生み出している人ばかりです。
「中小企業経営者」として仕事を従業員に任せて、怠けているような経営者を私は一人も見たことがありません。
ただ、経営者であるがゆえに、負担を一身に背負い、休みなく働き続けてしまっている人が多いのも事実と思います。
目の前の仕事を「労働者」としてこなすのに一生懸命で、「経営者」としての仕事を放棄してしまっている人が多いのかもしれません。
つまり、従業員の教育・育成(人材投資)や、工程改善・自働化、新しい技術や商品の開発、顧客との折衝など、本来経営者が担うべき活動を棚上げにして、黙々と目の前の仕事に取組む職人気質の経営者が多い、というのが日本の中小零細企業経営者の特徴ではないでしょうか。
(主に製造業のイメージなので、少し偏った見方かもしれませんが。。)
つまり、「仕事」に対しては一生懸命ですが、「経営」については労力を割けていない経営者が多いのではないかと思います。
これを「怠けている」と指摘されれば、一概に否定はできないかもしれませんね。。。
ちなみに、中小企業の数自体は、先進国で見れば絶対数としては多いですが、人口当たりで見れば少ない方です。
あまり指摘されることが無いようですが、「日本は中小企業が相対的に少ない国」という事も改めて知っていただきたいと思います。
参考記事: 日本の中小企業は本当に多いのか!?
日本経済を復活していくのに必要な事は、「生産性の低い中小企業を淘汰・合併していく事」ではなく、「中小企業経営者の意識そのものの転換」なのかもしれませんね。
皆さんはどのように考えますか?
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