080 国民の貧困化から脱する鍵とは?
1. 家計収入は増加、世帯主収入は減少という事実
前回は、勤労世帯の変化について様々な指標の見える化を図りました。
持ち家率が増加する一方で、世帯主の高齢化、非正規雇用の増加、共働きの増加という状況が明らかとなりました。
負債が増える一方で、収入を増やして何とか耐え忍ぶ中所得世帯の姿が浮き彫りとなりました。
今回は、実際の勤労世帯の収入と支出を可視化し、その実像を明らかにしていきたいと思います。

図1 実収入 2人以上の勤労世帯
(家計調査 より)
図1が世帯主の年齢階級別に見た、世帯としての実収入です。
2000年(青)と2019年(赤)での比較です。
実は、収入は全ての年齢層で増加しています。
貧困化が進んでいる、と考えていましたが、世帯収入は増加しているわけですね。

図2 世帯主の収入 2人以上の勤労世帯
(家計調査 より)
図2が世帯主の収入です。
25~34歳、55~64歳は増加していますが、それ以外の年齢層では減少しています。
特に働き盛りとも言える35~49歳の年齢層で減少が大きいですね。
収入が増えるどころか減少しているのは、異常ともいえる事態です。
2005年から2018年にかけて、日本以外の先進国(OECD加盟国)の平均所得は、20%程度増~数倍に増加しています。
アメリカでは40%、ドイツで53%、イタリアでも19%増加しているのです。
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図3 世帯主収入の割合 2人以上の勤労世帯
(家計調査 より)
そして、図3が実収入に対する世帯主収入の割合となります。
軒並み減少していることがわかると思います。
つまり、増加する家計収入の一方で、世帯主の収入の割合が減少し、存在感が薄れているという状況ですね。
そもそも世帯主という考え方自体が古いのかもしれませんが。。。
2. 消費支出は減少、非消費支出が増加
次に、支出面も見ていきましょう。

図4 実支出 2人以上の勤労世帯
(家計調査 より)
まず、図4が実支出のグラフです。
40~54歳と70歳以上の層では減少、それ以外の層では増加しています。
世代によって増減がある状況ですね。
もう少し詳細を見てみましょう。

図5 消費支出 2人以上の勤労世帯
(家計調査 より)
図5が消費支出のグラフです。
消費支出は、食費、家賃、光熱費など実際の生活に必要な支出ですね。
この19年の間に消費支出は軒並み減少しています。
収入が増加しているのに、消費支出が減少しています。
そして、この消費支出については、消費税も含まれていますので、実態としての税抜きの消費額は更に減っているはずですね。
消費支出がこの期間に増加どころか減少しているというのは、極めて異常な事態です。
ちなみに、2013年~2018年の5年間の変化になりますが、OECD各国では日本以外の国は10~26%の消費支出増大があり、日本だけが変化なしという統計結果もあります。
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図6 非消費支出 2人以上の勤労世帯(家計調査 より)
そして、図6が非消費支出です。
非消費支出は、所得税、住民税などの税金と社会保険料などです。
軒並みどの年齢層でも増加していますね。
税負担が間違いなく増加しているという事でしょう。
3. かくして家計は貧しくなる

図7 家計実収支 2人以上の勤労世帯
(家計調査 より)
そして、図7が家計の収入と支出の差し引きである、実収支のグラフです。
支出面が全体として変化が少ない(消費支出減、非消費支出増)のに対して、共働きが増える事で収入面は増えていますから、当然収支としてはプラスになっています。
そしてこの余力が増えたように見える分で、住宅ローンを返済していくわけですね。
住宅ローンなど、負債の返済は実支出に含まれません。
持ち家率が増えていますから、結局はこの増えたように見える部分は返済に回されていく分の割合が多いと見ても良さそうです。
実際に、実支出外での、住宅購入に関わる返済額は、概ね増大しています。
25~34歳で49,000→90,000円、35~39歳で72,000→117,000円、40~44歳で89,000→112,000円といった具合です。
つまり、勤労世帯では共働き減少する世帯主の収入や増加する非消費支出を補い、住宅ローンの返済に苦心している姿が浮き彫りとなります。
住宅の着工数は減少していますが、持ち家率は上昇しています。
着工数についてはいずれ取り上げてみたいと思います。
そして、経済にとって最も重要な、消費支出があろうことか減少してしまっているのです。
何度も言いますが、日本だけが、このような状況です。
アメリカやドイツなどの先進国のみならず、高福祉社会と言われ税負担なども大きい北欧諸国でもGDPや所得、消費は増加しています。
日本だけが、停滞し貧困化しているのです。
消費税に関する議論ばかりクローズアップされますが、果たしてそうでしょうか。
もちろん消費税によって消費が抑制されているという側面は大きいと思いますが、そもそも世帯主の収入が減っている事自体が異常事態です。
「労働者の所得を少しずつでも上げていく事」がまずは重要なのではないでしょうか。
企業は空前の内部留保を積み上げています、余力がないわけではないはずです。
結局は企業が短期的な利益の増大に躍起になり、人件費を抑制する事で、国内経済が貧困化し、企業と一部の富裕層が豊かになるという循環に陥っているように思います。
結果的に、非婚化・少子化が進み、さらなる国内経済の収縮が加速するという状況ですね。
このような「自己実現的な国内経済収縮」は、日本だけに見られる独特な傾向のようです。
ビジネスの流出一方の「日本型グローバリズム」もこの傾向に拍車をかけています。
関連記事: 日本型グローバリズムの急進展
私たちは、このような状況に対して危機感を持つとともに、どのように対処していけば良いのでしょうか。
私は、「企業経営者が仕事や労働の価値を見直し、仕事の付加価値・生産性と労働者の給与を上げていくとともに、モノやサービスの価格に正当に反映する事」が最も必要なのではないかと思います。
特に300万人近く存在し、労働者の6割程度を雇用し、主に国内向けのビジネスが多い中小企業経営者には、このような力があるはずです。
政治や法律を変えるのには時間がかかりますが、企業経営者のマインドと行動は一瞬で変えることができます。
企業経営者こそが、国民の貧困化を食い止め、日本経済を復活させて豊かにしていく力を持つキーパーソンではないでしょうか。
次回からは、企業にフォーカスしていきたいと思います。
みなさんはどのように考えますか?
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