お金を使わなくなったのは誰か

1. 家計最終消費支出とは?

前回は、国税庁の統計データから、企業規模別の赤字企業の推移について取り上げました。

零細・小規模企業の約8割、中規模企業の約7割、大企業の約5割が赤字であるという実態が分かりました。

企業は何故これだけ赤字体質になったのでしょう?

良く言われるのは、「日本ではモノが売れなくなったから」という意見です。

今回は、日本のGDPの詳細を見ることで、誰がお金を使わなくなったのか見てみましょう。

GDP(国内総生産)は、1年間で国内で生み出された付加価値の総額ですね。

GDPには、生産、分配、支出の3つの見方があり、これら3つのそれぞれの総額は全て同じになります。(三面等価の原理)

今回は、支出面のGDPの項目にフォーカスしてみます。

支出としては、家計、企業、政府、外国の4つの主体があります。

日本のGDPのうち最も大きい主体は家計ですね。

GDPを構成する大きな要素は、次のようなものです。

1. 家計最終消費支出 (≒民間最終消費支出)

2. 総資本形成 (民間-住宅)

3. 総資本形成 (民間-企業設備)

4. 政府最終消費支出

5. 総資本形成 (公的)

細かくは、財貨サービスの純輸出、総資本形成(在庫変動)、民間最終消費支出(対家計民間非営利団体最終消費支出)などという項目もあるのですが、数値が微小なため今回は除外して考えます。

輸出は輸入により相殺され、純輸出という数値となり、ほぼ0近辺となりますので外国という主体は今回は省略します。

(本当は輸出超過で、輸出ビジネスのGDPへの貢献がもっとあっても良いと思うのですが、、、)

GDP 嘉永最終消費支出 国民経済計算

図1 GDP・家計最終消費支出(名目)

(国民経済計算 より)

図1は、GDP(青)と家計最終消費支出(赤)、家計最終消費支出以外(緑)のグラフを示します。

日本のGDPは直近の2018年で約547兆円、家計最終消費支出は約297兆円です。

黒いラインがGDPに占める家計最終消費支出の割合です(約55%で推移)。

家計最終消費支出は、バブル崩壊により増加率が鈍化し、1997年の消費税増税(3→5%)によりほぼ横ばいに推移しています。

リーマンショック、東日本大震災で減少し、その後増加傾向(2011→2014)になったとたんに、消費税増税(5→8%)でまた横ばいとなっています。

家計最終消費支出は比較的緩やかな推移ですが、それ以上に変動しているのが家計最終消費支出以外の項目です。

バブル崩壊で増加傾向から横ばいに推移、1997年のアジア通貨危機・消費増税(3→5%)で減少傾向に転じ、リーマンショックで減少傾向が大きくなっています。

ただし、その後は順調に増加して2010年以降のGDPの押上げに貢献しています。

2. 家計消費以外で増えたもの

家計最終消費支出以外 GDP 国民経済計算

図2 家計最終消費支出以外

(国民経済計算より)

図2に家計最終消費支出以外の推移を示します。

一貫して増加しているのが、政府最終消費支出ですね。

1980年の約35兆円から直近では約110兆円と3倍ほどになっています。

大きく変動しているのが、総資本形成(民間-企業設備)ですね。

世の中で大きなイベントが起こるごとに激しくアップダウンしています。

この総資本形成(民間-企業設備)とGDPのアップダウンがほぼ一致します。

総資本形成のうち、民間-住宅と公的は1997年頃まで増加傾向ですが、その後減少して横ばいで推移しています。

2010年以降の動きでみると、次のような傾向があります。

<ほぼ横ばい>

家計最終消費支出

総資本形成(民間-住宅)

総資本形成(公的)

<増加傾向>

総資本形成(民間-企業設備)

政府最終消費支出

つまり、現在GDPが増加しているのは民間企業の設備投資と、政府の消費支出によるものという事ですね。

民間企業の設備投資は経済環境によってアップダウンしやすいため、

主に政府の消費支出がGDPを下支えしている構造と言えます。

政府最終消費支出の増加の多くは、社会保障負担の増大と思われます。

民間企業の設備投資は、2010年以降で増加傾向ではありますが、

1991年のピーク値を超えられていないようなレベルです。

日本型グローバリズムにより、国内での設備投資よりも海外拠点への設備投資を増やしている事も大きな要因と思われます。

参考: 日本型グローバリズムの正体

政府最終消費支出に着目すると、1997年以降の推移でいうと、政府最終消費支出と総資本形成(公的)を合わせた公的需要はほぼ一定です。

公的需要はGDPの約25%でほぼ一定で推移しています。

つまり1997年以降、総資本形成(公的)を減少させている一方で、政府最終消費支出を増やしているという見方もできます。

税収が停滞する中でいわゆる赤字国債を発行しながら、政府最終消費支出を増大させているわけですが、

できる限り国債発行額を減らそうという事で総資本形成(公的)を減少させてきた、とも読み取れます。

話をまとめますと、日本のGDPのうち、最も大きな影響を持っているのが家計の消費支出です(約55%)。

この家計消費が停滞を続けているわけですね。

政府による支出(公的需要)は、GDPの25%という上限キャップがあると考えられます。

(財政拡大により増大させられる可能性あり)

住宅などの総資本形成は住宅、公的共に低迷していて、

企業設備は景気の影響を受けやすいという特性があります。

つまり、家計の消費が伸びない限りは、GDPが安定的に成長することは困難であるという事になると思います。

今まで見てきたように、1997年は日本経済にとって転換点となった年です。

この時はアジア通貨危機、消費税増税(3→5%)が重なった時期でした。

3. あったかもしれない今

例えばざっくりと推算してみましょう。

バブル崩壊後の家計最終消費支出のグラフのうち、1991年から1997年の直線的に上昇しているグラフをそのまま2018年まで延長してみましょう。

家計最終消費支出 推定

図3 家計最終消費支出の推算

図3のようなグラフとなります。

この直線は年2%程度の成長を表しています。

そうすると直近の2018年には約410兆円の家計最終消費支出になっていた”かもしれない”わけですね。

家計最終消費支出がGDPの55%と仮定すると、2018年にはGDPは約745兆円になっていた”かもしれません”。

実はこれくらいの成長率が他の先進国(ドイツや他のOECD諸国)と同程度(むしろまだ低い方)なわけです。

デフレ下で実質”でも”600兆円に達していない現在の状況はやはり異常ですね。

日本は明らかに1997年を転換点として、家計消費→GDPが低迷していることになります。

4. 家計消費が増えない理由とは?

何故家計の消費支出が増えないのか、については色々と議論があると思いますが大きくは次の3点だと思います。

① 給与所得が増えない

② 社会保障負担、消費税負担が増大し可処分所得が減っている

③ デフレにより物価が下がっている

企業からすると次の通りですね。

① モノやサービスが売れない(需要低迷、デフレ)

② 利益が出ない

③ 従業員の給与を抑制

政府からすると次の通りです。

① 税収が少ない

② 公的需要を増やせない

原因はデフレなので、政府が赤字国債を発行してでも公的需要を増やせばよい(積極財政)という意見の方も多いと思います。

あるいは上記の議論から明らかに消費増税が原因なのだから、消費税を撤廃すれば良いという意見も多いのではないでしょうか。

私もまさにそう思いますが、一方で次のような事も考えられるのではないでしょうか。

企業は生産性・付加価値とともに販売単価を上げ(物価上昇)、それ以上に従業員の給与を継続的に上げる。

家計

① 給与所得が増える

② 可処分所得が増える

③ 物価が上がる(物価上昇よりも給与所得増加分が多ければ消費が増える)

企業

① インフレ環境(物価上昇、所得上昇による需要増加)となるためモノやサービスが売れる

② 利益を出しやすくなる

③ 従業員への給与を上げられる

政府

① 税収が増える

② 赤字国債発行をせずとも社会保障負担の増大に対応しながら、公的需要を増やせる

上記のような循環が、国民経済としてよりまっとうな形であることは言うまでもないと思います。

企業経営者が単価を上げ、従業員の給与を継続的に上げる、これも一つの経済活性化の処方箋と言えないでしょうか。

消費増税(8→10%)による景気低迷の影響が出始めた矢先での、今回のコロナショック。

サプライチェーンやグローバルビジネスの脆弱性、あるいは国境を強く意識せざるを得ない危機となった今だからこそ、

国内ビジネスを改めて見直す良い機会なのかもしれませんね。

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