グローバルビジネスで失うもの

1. 優先される海外への設備投資

前回は、実在の企業の有価証券報告書の内容から、多国籍企業の税収について取り上げました。

多国籍企業が海外で上げた利益については、そのほとんどが税収としては日本に還流しないという事がわかりました。

さて、多国籍企業の海外進出によって、

日本国内にはどのような変化が生じるのでしょうか。

今回は、従業員、設備投資について具体例を見ていきたいと思います。

図1 X社設備投資額の推移 (決算報告書より)

図1にグローバルビジネスを展開する、多国籍企業X社の設備投資額の推移を示します。

連結決算の結果です。

青が日本における設備投資額、赤が海外における設備投資額です。

リーマンショックの前後で少し傾向が異なることがわかると思います。

2009年より前には日本の設備投資額が海外よりもかなり多い状況でした。

例えば2008年では、日本で8631億円、海外で6171億円の設備投資を行っています。

日本と海外の比率でいえば、1.4倍程度の投資を日本で行っていました。

リーマンショックを経た2013年以降では、海外投資の方が日本での投資を上回るケースが増えており、日本と海外との比率でいえば1.0倍前後で推移しています。

明らかに日本国内よりも海外での設備投資の優先度が増している状況ですね。

2. 雇用も海外を優先

図2 X社 従業員数の推移 (決算報告書より)

図2は従業員数の推移です。

青が連結での従業員数、赤が単独での従業員数です。

もちろん連結には国内の連結子会社も含まれますが、海外での連結子会社も多く含まれます。

2003年の時点では連結で26.4万人、単独で6.6万人でした。

直近の2019年では、連結で37.1万人(10.7万人、約4割増)です。

単独では7.5万人(0.9万人、約1割増)です。

単独での従業員も増えていますが、それ以上に連結での従業員数が大きく増大しています。

単独と連結での従業員比率も25%程度から20%程度に減少しています。

連結従業員数と単独従業員の差の多くが、もしかしたら日本の労働者が”雇用されたかもしれない”人数と言えます。

3. 利益は国内本社に集約

図3 X社 当期純利益の推移 (決算報告書より)

図3は連結決算と単独決算での当期純利益の推移です。

連結決算では2003年時点では0.9兆円、2019年では1.9兆円の当期純利益となります。

単独決算では2003年時点で0.6兆円、2019年ではなんと1.9兆円です。

従業員数のグラフと見比べてほしいのですが、従業員数が連結と単独でこれだけ異なっているのに、当期純利益の金額では相当に近い割合となっているわけです。

当然前回見たように、単独決算のうち、営業外収益として海外事業からの配当金が入っており、それらのほとんどには法人税が課されませんので、当期純利益の底上げになっているのです。

4. 企業の海外展開の意義とは?

上記から読み取れることは、グローバルビジネスは、国内よりも海外での事業を増大させ、その利益を国内本社に集める機能があるという事です。

これにより、ビジネスに関連する需要(労働者、設備投資、外注費など)が海外に流出し、国内では抑制(あるいは減少)されるとともに、税収に寄与することもなく、当該企業に関連する主体(経営者、従業員、株主)のみが恩恵を受ける事になるわけですね。

つまりは、多国籍企業は当初の国民国家に根差した存在から、半ば国家から分離・独立した組織体へと変化していると言えるのではないでしょうか。

企業の多国籍化を批判したいわけではありません。

世界的にグローバル化が進む中で、経営者の合理的判断のもと、熾烈な競争を勝ち抜く手段として多国籍化がとられているのでしょうから。

重要なのは、グローバル化から取り残された国内の企業や労働者(多くの国民)が、真に自分たちにとって必要なビジネスや経済活動がどのようなモノなのかを考え直すことだと思います。

合理化、大規模化するグローバルビジネスではカバーできないモノやサービスに対して、消費者として適正な価値を認め、それらを生み出す労働者に対して経営者として適正な対価を支払う事が第一歩ではないかと思います。

皆さんはどのように考えますか?

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