グローバル化と国益の関係

1. グローバルビジネスは税金として還流するか?

前回は、実在の企業の決算報告書の内容から、多国籍企業のグローバルビジネス(海外展開)について考えてみました。

国内生産と海外生産の比較をすると、国内生産は横ばいなのに対して海外生産が徐々に増え、既に海外生産の方が多い状態であることが分かりました。

生産拠点が海外に移転する事で、国内産業の空洞化などサプライヤーサイドに大きな影響が出るだけではありません。

現地人の雇用は増えますが日本人の雇用増大には寄与しません。

また、投資家への配当金を増やさざるを得ず、必ずしも国益に沿わない短期的な経営を余儀なくされるなどの影響が出る事を指摘しました。

それならばせめて、多国籍企業の業績が向上することで日本の税収が増えるのではないか、と思えばそうでもないようです。

実例で見る限りでは、当期純利益の水準からすると、法人税はむしろ減っている状況が分かりました。

今回は、企業の海外進出についてもう少し踏み込んでご紹介することで、多国籍企業の税収について考えてみたいと思います。

(私自身は海外進出については未経験で、知見に乏しいので、現状で調べた範疇でのご紹介となりますので、予めご容赦ください。

間違った認識などございましたら、コメントなどでご指摘いただければ幸いです。)

例えば日本貿易振興機構(JETRO)では、海外進出についての支援サービスを行っています。

企業の海外進出には、「支店」と「現地法人(子会社)」の2つのスタイルがあるそうです。

「支店」は、本社と同一の事業体で、一つの部署がそのまま海外に移ったというイメージとなります。

現地法人と比べると、本社機能を共通で使えるため、事務作業等の煩雑な作業が省略されるメリットがあるようです。

基本的に支店での所得は、現地国でも納税の義務が生じます。

当然本国(日本)でも納税の義務がありますので、「二重課税」となります。

この場合、海外展開先の税率と本国(日本)との税率の差分だけ本国で納税すればよい、という外国税額控除を適用することで、二重課税を回避することができます。

また、支店の場合は、支店で赤字が生じても、本社の売り上げで相殺できるというメリットがあるため、赤字が見込まれる進出初期にはこの「支店」の形態が選ばれやすいようです。

「現地法人」は親会社とは独立した事業体です。

基本的には親会社の出資により設立されます。

当然資本関係(25%以上)はありますが、会計は別々となります。

別法人となりますので、税務、登記なども別で事務作業は煩雑となるようです。

現地法人の法人税は、現地法人の所在する国で納税します。

親会社は現地法人の海外所得については、申告をする義務は原則としてないようです。

親会社へは、現地法人の当期純利益の分配として、配当金という形で寄与することができます。

この場合「受取配当金の益金不算入」の制度が適用されます。

一定の要件を満たす海外子会社からの配当金の95%は、日本の親会社の所得に含めないくても良いというものです。

つまり、海外子会社からの配当金の95%については、税金がかからないという事になります。

支店の場合は、海外進出による利益は本社に帰属し、その分の法人税については基本的には日本と現地との税率の差分のみ納税するという事になります。(外国税額控除)

現地法人の場合は、現地で法人税を納税し、本社へは配当金という形で還流させ、そのほとんどには日本への納税の義務はないという事になります。(受取配当金の益金不算入)

上記より、「支店」「現地法人」のいずれのスタイルをとるにしても、

現地での事業活動による利益は日本国内の本社に還流させる事が出来ますが、

その分の法人税についてはほとんど日本には納税されないという事になります。

2. 実例で見る税率の変化

法定実効税率と実質負担率の実例

図1 X社 法定実効税率と実質負担率 (有価証券報告書 より)

図1に、X社の有価証券報告書から、法定実効税率と、税効果会計適用後の法人税等の負担率(実質負担率)を示しています。

そもそもの法定実質税率が39.9→30.1%に下がっているのもありますが、税効果会計適用後の実質的な法人税は2005年の36.3%から、18.4%と半減しているような状況です。

2005年の段階では、外国税額控除が3.3%相当、受取配当金等の永久に益金に算入されない項目が2%相当でした。

2019年には、外国税額控除が0.5%相当と減り、受取配当金等の永久に益金に算入されない項目が9.1%相当と大きく増えています。

この企業は2005年の段階では、支店と現地法人の割合としては支店の方が多かったのが、

2019年にはかなりの割合を現地法人としている事が読み取れると思います。

単独決算の数値から見ると、2005年には営業利益7000億円、受取配当金は1520億円程度でした。

2019年は営業利益が1兆3200億円、受取配当金は約8000億円と大幅に増加しています。

法人税については、2005年が税引前純利益 8300億円に対して、法人税3000億円程度です。

2019年では、税引き前純利益 2億3200億円にて対して、法人税4200億円程度です。

税引き前純利益が4倍近くに増えていますが、法人税額は1.5倍にもなっていないわけですね。

受取配当金は営業外収益となります。

その95%は法人税から控除されるわけですから、大きく当期純利益を嵩上げしていることが分かります。

もちろん、この受取配当金は自社の海外子会社からのものばかりではないと思いますが、かなりの割合が海外子会社を通じての配当金と推測されます。

今回は、日本企業の多国籍化(グローバル化)について、せめて法人税だけでも日本に還流するのではないか、という疑問について考えてみました。

結果は、海外進出した事業の収益のほとんどは、税金として日本に還流しないというものでした。

つまり、企業の多国籍化については、その企業の経営者、従業員、株主にとってはメリットが大きいですが、それ以外の多くの国民には直接的には寄与しない事がわかりました。

もちろん、多国籍企業がグローバルに競争することで、技術力を高め、製品価格が引き下がるなどの波及的な効果は大きいと思います。

重要なのは、取り残されている私たち国民経済の視点として、グローバルビジネスとの付き合い方や、国民経済に真に寄与するビジネスとは何かを自分事として考え直すという事ではないでしょうか。

3. 税収は経済発展すれば自然と増えるはず

税収内訳の推移 日本 OECD

図2 税収内訳の推移 (OECD統計データ)

法人税に触れましたので、日本の税収についてももう一度今の状況を示したいと思います。

図2に日本の税収の内訳を示します。

所得税、社会保障費を合わせるとGDPの18.1%となり、税収の半分以上となります。

これらは日本の労働者の所得に連動する税収ですね。

一方で法人税は3.7%程度です。

もともとの割合がこんなにも違うのですから、税収を上げたいと考えるのであれば、もともと少ない法人税を上げるよりも、”労働者の所得を上げて”所得税と社会保障負担という税収を上げた方が極めて効率的なはずです。

当然、所得が上がれば消費も増えますので、企業業績も向上しさらなる所得アップにつながりますし、消費も増えるので消費税収も上がると思います。

税率の議論はあると思いますが、まずは企業経営者がまっとうにビジネスを行い、従業員の給与を上げていく事が重要ではないかと思うのです。

グローバル企業が国民経済から半ば分離・独立しつつある状況だからこそ、

国民経済、国民生活に必要な経済活動を、企業経営者、労働者、消費者、政治家・官僚、教育者、その他関係者として、

それぞれの立場で改めて考えるタイミングなのではないかと思います。

皆さんはどのように考えますか?

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